処分の経過と違和感
昨年暮れ、警察庁が村井紀之・前兵庫県警本部長を警察庁長官注意1に、兵庫県警が男性警視を警務部長訓戒にし、県警幹部複数を口頭で注意したとのニュースが流れた。処分理由は、県警から違法駐車車両の確認業務と県警本部の食堂の運営業務を委託する業者から酒類など金品を受け取った、すなわち、利害関係者から接待を受けたというものであった。
ところで、村井氏は以前、注目を集めたことのある人物である。昨年1月、立花孝志氏が、故竹内英明元県議が兵庫県警から取り調べを受けていたと事実に基づかない発言をしたことがあった。その際、村井氏は、県議会で故竹内氏に対する取り調べを行ったことはないと明言した。県警のトップが、公の場で具体的な捜査状況に関して発言するのは異例である。この対応により村井氏は耳目を集めた。
村井氏は、その後、中四国管区警察局長へ異動し、8月に退職予定だった。しかし、直前に退職が取り消され警察庁長官官房付けへ異動となった。このことが、憶測を呼んだ。立花氏は、村井氏がなんらかの不祥事を起こし、調査を受けていると主張していた。2
実際に「不祥事」はあり、処分を受けた。この処分に関して、目を引くことがある。村井氏や県警の幹部らを接待した業者の代表の男性が、2024年の兵庫県知事選の時、岸口県議が立花氏に内部告発者に関する真偽不明の情報を渡した面談の会場を用意した人物であったことだ。3他にも、気になる点がある。この男性は処分の報道がなされた後に、時事通信の取材に応じている。4その中で、「県警業務を赤字でも続けてきたのは日々治安を守ってくれている警察への恩返し。接待や癒着は一切ない」と語っている。一方で、業務を受注した経緯について、違法駐車車両の確認業務は警察OBから、県警本部の食堂の運営業務は県警の総務部長から、それぞれ話を持ちかけられ受注に至ったと語っている。また、処分を受けた警視は過去に総務部で県議会の担当をしており、ある県議に紹介され、親密に付き合うようになったとも語っている。
県警の幹部が入札の話を持ちかけた経緯にはどこか違和感を抱く。警視と親密に付き合うようになったきっかけが、県議の紹介であるという点も違和感を抱かせる。この男性が、立花氏に岸口”県議”を紹介したことも重なる。
情報公開請求ー膨らむ違和感ー
私は、この件に関する情報公開請求を行った。違和感を解消する手がかりを期待した。公開請求書には、「(略)この件に関して 1交付された訓戒書及び注意書 2監察官が行った事実の調査(兵庫県警察職員の懲戒の取扱いに関する訓令第7条参照)に関連して、作成又は取得した一切の文書。 3処分に至るまでの意思決定過程が分かる一切の文書。」と記載した。
この請求に対して、非公開決定が一件、公開決定が一件出された。非公開決定によると、「訓戒書は、被処分者に交付しているため保有していない。注意書と処分に至る意思決定が分かる文書は、作成していないため保有していない。」とのことだ。公開決定は、「訓戒等処分台帳(令和7年12月分)」を公開するとのものだった。その備考欄には、「公文書の件名は、公文書公開請求書に記載の「監察官が行った事実の調査(略)に関連して、作成又は取得した一切の文書」に該当します。」と記載されていた。
この決定を見て、強い違和感を感じた。唯一開示された「訓戒等処分台帳」は、処分の後にその概要等を記録する文書だ。処分後に作られる文書しかないということは、処分のための調査に関しても、処分の意思決定に関しても、一切文書が残っていないことになる。5
文書が作られていない理由について担当者に話を聞いた。まず、訓戒書と注意書に関して。訓戒書は原本を交付しており、今回は控えも残していない、「訓戒等処分台帳」で控えを兼ねている。注意書に関しては、今回は、訓令に基づく注意処分ではなく、監察官室の内規に基づく口頭厳重注意であるため、交付していないとのことだった。次に、処分に至るまでの意思決定過程が分かる文書に関して。本件は決裁も含めて口頭で行っているので文書は存在しないとのことだった。最後に、事実の調査に関連して、作成又は取得した一切の文書について。調査に関する報告などは全て口頭で行われている。口頭報告の際のメモなどはあったが、公文書として取り扱っておらず、プライバシー情報への配慮のために既に廃棄されているとのことであった。
文書不存在の問題点
行政機関が職員を処分する意思決定に関して、一枚の文書も作られていないことは異常である。
さて、兵庫県公文書等の管理に関する条例6第4条には、「職員の人事に関する事項」について、「経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該実施機関の事務及び事業の実績を跡付け、又は検証することができるよう」に「文書を作成しなければならない」とある。公文書管理条例を所管する兵庫県庁文書課によると、訓戒処分等の「監督上の措置」であっても、職員への不利益処分であり、「職員の人事に関する事項」に該当するとのことであった。
他の処分では、どの様な文書が作成されているかについても調べてみた。手始めに、「2025年に行われた訓戒及び注意に係る決裁文書全て」を請求した。一つの処分に関する文書は、「非違事案の(発生・処分予定・処分実施)について」という題の文書7と、訓戒書又は注意書の交付に関する起案用紙で構成されていた。次に、訓戒等処分台帳と照らし合わせ、2025年に行われた処分全121件の内、何件でこれら文書が作成されているか確認してみた。すると、起案用紙は、本件と警視正が2022年に部外者から不適切な接待を受けた件8以外の全件で、「非違事案の(発生・処分予定・処分実施)について」は、本件以外の全件で作成されていた。
本当に文書が作成されていないとすれば、兵庫県公文書等の管理に関する条例に反している。本件以外の処分では全て文書が作成されていることを併せて考えると、本件に限って何ら文書が作成されていないのは、やはり不自然である。
調査に関する文書が一切作られていないことも信じ難い。本当に口頭報告の積み重ねのみで、処分を決定できるのだろうか。また、兵庫県警察職員の懲戒の取扱いに関する訓令9第8条には、調査を経て懲戒手続に付する場合には、「本人から事情を聴取して作成した書面又はてん末書等」、「関係者から事情を聴取して作成した書面又はてん末書等」、その「ほか必要な証拠資料」などを添えて申し立てを行わなければならないとある。調査が終わらないと、訓戒処分などにするのか、懲戒手続きに付すのかは、分からない。特に本件は、調査をして当該業者の入札に問題ありとなっていた場合、懲戒処分となっていた可能性が高い。もし、何の文書も作らずに調査を行っていたなら、懲戒手続きに付することとなった場合、懲戒申し立てに必要な文書が何もないという事態に陥る。
なにより、処分に関しては、後になって紛争が生じることもありうる。意思決定文書も調査記録も無いのでは、紛争が発生した時、兵庫県警自身が困るはずだ。なんにせよ、文書は存在するのではないだろうか。
審査請求
情報公開請求の決定に対しては、審査請求をすることが出来る。私は、2月13日付で審査請求を行った。3月24日付で兵庫県警より「弁明書」が届いた。文書が作られていないことに関しては、私の審査請求書での主張を引用し、「請求人は・・・等と主張しているが、」「請求人が公開を求めた内容については、口頭で意思決定を取って処理が進められた事案に関する内容である」との一文のみであった。どこがどう「弁明」になっているのか理解しがたい。
今後、私が「弁明書」に対する反論を提出し、兵庫県情報公開・個人情報保護審査会に判断が委ねられることになる。
おわりに
本件は、報道されている警察当局や関係者の話によると、ただ利害関係者から接待を受けただけで、契約などへの影響はなかったとのことだ。しかし、政治の陰が見え隠れし、どことなく違和感が漂う案件である。そして、処分に関して何一つ文書が作られていないことが、違和感を増大させている。政治家と関係がある人物との契約絡みで公文書が適切に作成・管理されていないことは、森友学園問題も想起させる。ひとまず、審査請求の結果を待ちたい。
- 村井紀之本部長への処分に関しては、「非違事案の処分実施について」が作成されている。意思決定文書、調査に関して作成・取得された文書に関しては、現在請求中である。 ↩︎
- YoutubeChannel立花孝志「兵庫県警本部長だった村井さんが辞職をストップ!」https://www.youtube.com/watch?v=gj3wJvL6IOk ↩︎
- 時事通信「「メリットなくただの厚意」 兵庫県警幹部へ金品、経緯明かす―県議死亡の疑惑も言及・委託先業者」https://www.jiji.com/jc/article?k=2025122500674&g=soc ↩︎
- 前掲注3時事通信記事 ↩︎
- 公開決定の備考で、処分後に作成される「訓戒等処分台帳」が、処分を決めるために行う「事実の調査」に関連する文書とされているのも不自然である。 ↩︎
- https://ops-jg.d1-law.com/opensearch/SrJbF01/init?jctcd=8A85CFF43A&houcd=H501901010010&no=1&totalCount=26&fromJsp=SrMj ↩︎
- 「非違事案の(発生・処分予定・処分実施)について」とは、警察庁の「特異事案報告要領の制定について」という通達に基づく警察庁への報告に使われる文書である。 ↩︎
- 神戸新聞「2022年に高級飲食店で数万円の接待 警察署長の警視正を本部長注意 兵庫県警」https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202602/0019977654.shtml ↩︎
- https://www.police.pref.hyogo.lg.jp/kunrei/data/K6511027.pdf ↩︎

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